『銀河核へ』は心温まる人間賛歌SF!個人出版からヒューゴー賞候補の傑作レビュー

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ウキイタ

うわぁ、星々よ(スターズ)、最高な宇宙船!

相方さん

『銀河核へ』!

今回ご紹介するのは、ベッキー・チェンバーズ著『銀河核へ』。わたしが以前、試し読みで「これはおもしろい!」と確信し、読了するまで夢中になった傑作SF小説です!

本作は、宇宙船〈ウェイフェアラー〉号が銀河の中心へと旅をするスペースオペラ。地球人や異星人が共存する銀河共同体(GC)を舞台に、多様なクルーの絆と人間愛が織りなす物語は、作者ベッキー・チェンバーズの温かい人柄が伝わる、心から好きになれる傑作ですよ!
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目次

作品情報

あらすじ

銀河系中心部への新航路を拓け!
よせあつめの宇宙船に突如舞いこんだ大仕事
未知の種族が待つ惑星に向けて波瀾万丈の大航海!


故郷を失った地球人類は、多様な種族が共存する銀河共同体(GC)に加盟を許され、弱小種族ながら繁栄を享受していた。宇宙船〈ウェイフェアラー〉は、超光速航行のためのワームホール、通称“トンネル”建設専門の作業船である。多種族混成の寄せ集め乗組員とつぎはぎだらけのこの中古船に、GC政府から突如舞い込んだ大仕事──銀河系中心部(コア)への新航路となる長距離トンネルを掘れ、というのだ! かくして彼らは、未踏の宙域への長い長い航海に乗り出した。個人出版から熱狂的な人気を博し、ヒューゴー賞、クラーク賞候補となった傑作スペースオペラ!
引用:Amazon.co.jp

作品データ

本の詳細内容
タイトル銀河核へ 上・下
著者ベッキー・チェンバーズ
テーマスペースオペラ
受賞年2016年アーサー・C・クラーク賞候補
2019年ヒューゴー賞最優秀シリーズ賞(シリーズとして)
出版社東京創元社
発売日2019/6/28
ページ数321・305ページ

作者プロフィール

ベッキー・チェンバーズ(Becky Chambers)は、1985年生まれのアメリカのSF作家。宇宙開発に携わる家族のもとで育ち、現在はパートナーとともにカリフォルニア在住 。

デビュー長編『銀河核へ』は、クラウドファンディングで執筆資金集めに成功し、個人出版からスタート。その後、商業出版され世界的な注目を集めた。代表作の〈ウェイフェアラー〉シリーズは2019年のヒューゴー賞シリーズ部門を受賞 している。

「クィア・ノーマティヴ・ホープパンク」と形容されるSFの新しい希望を描く作風で知られ、シニシズムと分断に満ちた世界に対して、温かく人間味あふれる物語で希望を提示する作家として評価されている。

引用:ベッキー・チェンバーズ公式サイト

レビュー

読み進めるほど愛おしくなる!人間賛歌に満ちた最高のスペースオペラ

つぎはぎだらけの宇宙船ウェイフェアラー号に事務員として雇われたローズマリー。乗船後、案内役のコービンには歓迎されません。しかし、コクピットに立ち寄ると、エイアンドリスク人の操縦士シシックスは彼女を温かく迎え入れ…

読み進めると、この船の日常が徐々にわかってくるんです。ガラスのドームに囲まれた植物溢れる食堂での歓迎会。グラム人のドクター・シェフが絶品料理(巨大なバッタも!)を振る舞ってくれます。この食堂が、クルーたちの憩いの場なんです。技術者(テック)のキジーは藻のポテチをつまみながら、マシン・ボットで直せる部分もわざわざ自分で修理していてね。アシュビー船長にはイリュオン人の恋人ペイがいて、みんな知っているのに素知らぬ顔。そんなところも微笑ましく描かれています。もう一人の技術者ジェンクスはAIラヴィーを愛してる。結局、コービンだけが堅物で、あとはみんないい奴なんですよ笑。

そんな中、GC政府から舞い込んだ大仕事≪銀河系中心部(コア)へのトンネル建設≫に、長い宇宙航海が始まります。航海の途中で立ち寄る惑星では様々な異星人との出会いがあり、ペイが乗る船が助けを求めてくる出来事もあったりします。そんな長い旅の中で、ローズマリーはクルーとして、仲間として認められていくんです。

作者ベッキー・チェンバーズの人間愛が全編に溢れていて「こんな世界に遠い未来は待っているのかもな…」って思わされました。最後は軽く涙が出ちゃったよ。続編邦訳を心待ちにする傑作と出会えたのでした!

気づいたら全員好きになってた!魅力的すぎるクルーたちとの冒険

つぎはぎだらけの宇宙船ウェイフェアラー号のクルーは全部で9人(+AI 1機:彼女もひとりのクルー)。

地球人クルー:

  • アシュビー・サントソ:船長。離郷船団出身で宇宙生活に精通している
  • ローズマリー・ハーパー:火星出身の新人事務員。過去を隠して乗船してきた
  • キジー・シャオ:技術者(テック)の1人。非常におしゃべりで船をいじり回す。藻のポテチが好物
  • ジェンクス:もう1人の技術者。小柄だが、それを変更しないことを選択している
  • アーティス・コービン:藻類学者。短気で人付き合いが悪く、燃料となる藻類研究室にこもりがち。

異星種族クルー:

  • シシックス:エイアンドリスク人のパイロット。トカゲ人間のような姿。
  • ドクター・シェフ:グラム人。6本の肢を持ち、医師と調理人を兼任する温かいおじさん。デカいバッタ料理を作ったり、みんなの相談役でもある
  • オーハン:シアナット・ペアのナビゲーター。サブレイヤーの複雑さを理解でき、トンネル建設に不可欠な存在

AI:

  • ラヴレイス(ラヴィー):ウェイフェアラー号に搭載されたAI。船上のプロセスを実行し、通信をサポート。ジェンクスに愛されている

各クルーたちが魅力的なんです。そこに訳ありのローズマリーが乗り込んで…キジーとシシックスの女性陣、温かいドクター・シェフ。ちゃんと全員に見せ場があって、それぞれの背景が明らかになっていく。爆弾処理のキジーの活躍、ジェンクスとAIラヴィーの関係、オーハンの治療にコービンの秘密。ローズマリーとアシュビー船長が物語の中心です。この二人もね。うん、魅力あるキャラたちよ!

個人出版からヒューゴー賞候補へ!新世代SFの希望を描く傑作

本作『銀河核へ』は、その異色の成り立ちからして、従来のSF小説と一線を画しています。

著者ベッキー・チェンバーズは、執筆資金をクラウドファンディングで集め、個人出版からこの長編をスタートさせました。その熱狂的な人気が世界に広がり、商業出版されたのち、SF界最高の栄誉であるヒューゴー賞やクラーク賞の候補作に選出されたという経歴を持っています。

また、この作品が属する〈ウェイフェアラー〉シリーズは、2019年にヒューゴー賞最優秀シリーズ賞を受賞しており、その作品性の高さは折り紙つきと言えるでしょう。

この背景は、まさに物語が描く「新しさ」と「希望」を象徴しています。

チェンバーズが描くのは、多様な種族が共存し、「絆」と「優しさ」で問題を乗り越えていく温かい未来です。これは、SFの新しいムーブメントである「ホープパンク(Hopepunk)」と形容されており、「分断」が叫ばれる現代社会において、心から望ましいと思える希望の姿を提示してくれます。

まとめ

『銀河核へ』は、つぎはぎだらけの宇宙船〈ウェイフェアラー〉号のクルーたちが、銀河系中心部への大航海に挑むスペースオペラです。

この物語の核にあるのは、種族や立場の違いを超えた「絆」と「優しさ」。訳ありの新人事務員ローズマリーの視点を通して描かれる、クルーたちの日常は、心温まる人間賛歌となって全編に溢れています。

クラウドファンディングによる個人出版から始まり、ヒューゴー賞候補にもなった異色の経歴は、本作が既存のSFにない「新しい希望」を描いていることの証です。

現代社会の「分断」に疲れた方にこそ読んでほしい、優しさに満ちた未来の物語です。ぜひ、この「ホープパンク」の傑作に触れ、愛すべきクルーたちとの旅を楽しんでください!

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